The Internet and Religious Groups

1 課題と方法

情報技術の発達・情報環境の拡大と、それに伴う社会構造やメンタリティの変化が、現代日本の宗教にどのような変容をもたらしているか。マスメディアの発達と宗教との関わりについての調査研究は従来も行われてきたが、今日、インターネットに代表されるような、コンピュータを介した相互的なコミュニケーション (Computer-Mediated Communication: 以下 CMC と略) の普及状況に着目し、この新たなコミュニケーション空間における宗教活動の実際を明らかにしつつ、研究視角を開拓したい。

インターネットと従来の情報メディアとのコミュニケーション特性の相違: n×n の通信。1×1 (手紙、電話) や 1×n (マスメディア) とは異なり、個人が不特定の複数の個人を相手にして双方向のやりとりをする。これにより、電子民主主義の到来([ラインゴールド1995])やそれへの懐疑、社会システムを支えてきた信頼の変容([宮台1996])などが多くの論者によって論じられている。

インターネット上の宗教活動の特質として従来指摘されてきた点:

他宗教や宗教批判、また宗教を装った経済活動等との並立・併存状況
組織宗教のヒエラルキーの浸食 ([Zaleski 1997: 4-5])
時間・空間を超えながらも現在的・直接的な相互作用性をもつことにより、匿名の個人間の新しい結びつきに強くはたらきかける ([Zaleski 1997: 16], [川島1997])

日本の宗教教団のインターネット利用に関する包括的な把握はまだなされていない。
日本の教団数と宗教 Web サイト数の隔たり…『宗教年鑑』と Yahoo! JAPAN とで比較 (図1参照)。これをそのままインターネット上の教勢分布とみなすのは危うい。 Web はインターネットの最大のブレイク要因だったが、インターネット = Web ではない。コンピュータ・ネットワークのさまざまな利用実態に注目する必要がある。

米国の調査団体Barna Research Groupによる調査([Barna 1998]): 全米の10代若者に対する電話調査で、インターネットの利用用途のうち「宗教的・霊的体験」は回答中最下位の 4% である (1位「情報をみつける」93%、 2位「音楽やビデオの新作をチェックする」56%) にもかかわらず、大人の12% が宗教的目的に利用しており、世代が上がるごとに利用率が下降していること、10代の 16% が、5年以内に現在の教会を基礎とする宗教的経験にとってかわるものとしてインターネットを利用するだろうと回答していること、および集団別の統計などを理由に、若者の間で今後宗教的な目的でのインターネット利用が増加すると予測している。 …萌芽的な段階であるために単純な方法で傾向を把握することが困難であるという事情を表している。

全体的な傾向の把握を蓄積しながら細かな分析を行うための試みとして、日本の宗教 Web サイトの分類・収集を共同研究 (黒崎浩行・田村貴紀・葛西賢太・深水顕真) の一環として実施[1]。ここでは中間報告として、神社Webサイトを中心にとりあげつつ、その方法を検討する。

2 日本の宗教Webサイトの分類と神社Webサイトの特徴

2.1 実勢

1998年8月19日現在、 Yahoo! (http://www.yahoo.com/) 登録宗教サイト数15,564に対し、 Yahoo! JAPAN (http://www.yahoo.co.jp/) に登録されている宗教サイト数は 1,225。

1998年6月4日現在の系統別サイト数[2]:
神道系80 (7.4%)、仏教系373 (34.6%)、キリスト教系516 (47.8%)、その他110 (10.2%)。『宗教年鑑』平成8年版所載単位宗教法人数との比較: 図1参照。

図1: 『宗教年鑑』平成8年版所載単位宗教法人数とYahoo! JAPAN登録宗教サイト数

2.2 分類方法

実践別分類: そのサイトを訪れたユーザーは何を行うことになるのか、によって10のカテゴリーに分類[3]。図2参照

さらに、これをサイト運営者側の目的に対応づけて4つにグループ化。

自己開示: 自己紹介、教典や説教などの情報提供: ほとんどの宗教関連サイト。 →実践別分類の「知る」、「鑑賞する」に対応
世論へのアピール: 宗教の社会活動、反カルト運動など。米国の宗教団体・連合体のサイトには多くみられる (学校教育、中絶反対、マイノリティの人権擁護、カルト対策情報提供など) が、日本ではあまり目立たない。 →「知る:宗教と社会」、「知る:宗教と政治」、「知る:宗教と経済」、「知る:宗教と科学」
ヴァーチャル儀礼: 参拝・墓参・占い・祈祷などの場を提供する。 →「祀る」、「願いを叶える、力をもらう」、「修行する」
集会・相談: BBS(掲示板)・身の上相談・カウンセリングなどの、時間的・空間的に拡張されたパーソナルな結びつきをもたらす。 →「話し合う」、「打ち明ける」

2.3 神社Webサイトの特徴

1998年6月8日時点で Yahoo! JAPAN の「生活と文化:宗教:宗教別:神道:神社」に登録されていた50サイトを対象に、 1998年8月19日・9月1日に調査。

実践別分類による分類結果: 図2 参照。

図2: 神社Webサイトの実践別分類
知る	教団・社寺・教会の概要・沿革	50	100.0%
	教義・教え	9	18.0%
	宗教的人物	3	6.0%
	宗教思想・宗教哲学	0	0%
	宗教学・宗教研究	3	6.0%
	宗教と社会	3	6.0%
	宗教と政治	2	4.0%
	宗教と経済	0	0%
	宗教と科学	0	0%
	その他	29	58.0%
話し合う	BBS	5	10.0%
	チャット	1	2.0%
	メーリングリストへの誘い	1	2.0%
	その他	1	2.0%
打ち明ける	人生相談	1	2.0%
	懺悔・告白	0	0%
	カウンセリング	0	0%
	その他	0	0%
祀る	参拝・参詣	10	20.0%
	巡礼・巡拝	1	2.0%
	年中行事	0	0%
	葬送・墓参・死者儀礼	0	0%
	その他	0	0%
願いを叶える、力をもらう	占い	6	12.0%
	まじない	0	0%
	祈祷	5	10.0%
	その他	1	2.0%
修行する	写経	0	0%
	写仏	0	0%
	瞑想	0	0%
	その他	0	0%
入信・入会する	入会申し込み受け付け	0	0%
入信・入会する	その他	4	8.0%
買う	出版物 (書籍・雑誌・CD)	1	2.0%
	お守り	4	8.0%
	食品	0	0%
	その他	2	4.0%
鑑賞する	景観	14	28.0%
	宗教建築	6	12.0%
	宗教美術	4	8.0%
	宗教音楽	3	6.0%
	宗教文学	1	2.0%
	その他	7	14.0%
つながる	リンク集	26	52.0%
つながる	その他	4	8.0%
その他		-	-

運営目的別分類に置き換えると次のようになる。

自己開示: 「知る」99、「鑑賞する」35、計134。
世論へのアピール: 「知る:宗教と社会」3、「知る:宗教と政治」2、「知る:宗教と経済」0、「知る:宗教と科学」0、計5。
ヴァーチャル儀礼: 「祀る」11、「願いを叶える、力をもらう」11、「修行する」0、計22。
集会・相談: 「話し合う」8、「打ち明ける」1、計9。

各分類ごとの詳細:

自己開示

すべての神社サイトが該当。「知る:その他」(29)の内容は、神社が保有する文化財や祭りの紹介、地域の紹介など。神社の由緒・祭神・年中行事などとともに、史跡や伝統文化の情報提供という傾向が大きい。

世論へのアピール

「知る:宗教と政治」(2)は、国旗「日の丸」掲揚の呼びかけ (深江稲荷神社 http://www.yo.rim.or.jp/~finari/)、愛媛県玉串料訴訟 (神社オンラインネットワーク連盟 http://www.jinja.or.jp/)。

ヴァーチャル儀礼

神社関係者の間では1年以上にわたり議論の的になっている。「バーチャル参拝　是か非か」(『産経新聞』1997年8月24日) に掲載された、愛宕神社 (東京都港区、http://www.asahi-net.or.jp/~gx8r-mtok/) に関する東京都神社庁の批判的コメント:

東京都神社庁の新倉重行参事は「神社にお参りするというのは、画面を拝めばいいというものではありません。おみくじも社頭で引いてこそ意味があるのです。また、インターネットで崇敬者を募集するようなことがあれば、神道のあり方から逸脱しますので、開設にあたって何らかの制限を設けたいと思っています」と話す。

「特集・神社とインターネット」(『神社新報』1998年1月1日)での佐野和史氏の署名記事「教化の窓を広げる」:

神社がホームページを開設する目的は種々あるだらうが、単なる集客や宣伝のみについての効果は期待できないと思ふ。もともと遊び感覚でコンピュータを操作する若者向けに発信しても、これらに参加してゐる若者の行動力からして、インターネットのホームページを見ただけで、わざわざ遠隔の神社まで足を運ぶかどうか疑問だからだ。
「バーチャル参拝」やネット上での「おみくじ」などは、今のところ神職の自主規制に委ねるしかないのだが、コンピュータの普及やより多くの神職の参画によって、個人的には、いづれ淘汰されるのではないかと考へる。

1998年8月20日に矢先稲荷神社(東京都台東区)で神社Webサイト運営者を中心とする神職によって開催された研修会「神社界インターネット利用の現状と未来―人文系のパソコン利用―」 (Shrine Net・神社オンラインネットワーク連盟共催)で出された意見:

「バーチャル神社は、実際に行けない人には役立つかもしれないが、やはり(実際の神社の)おごそかな場所に行くことが大切。最終的には実際に神社に参拝に来てほしい」との意見が出た。([ウォッチ編集部1998])

また、上記研修会の準備段階で交わされたメールでは、人々を呼び寄せる「ウリ」としてのおみくじ等は必要という意見が出された (1998年8月12日、富山県在住神職)。総じて、(virtual の本来の意味での) 「実質的な」儀礼であるというよりも、疑似的 (pseudo) なものであり、客寄せのための遊びであるという認識がみられ、神社 Web サイトが現実の神社の境内・社殿の代替物とはなりえないとみなされている。

集会・相談

BBS は若干あるが、身の上相談やカウンセリング等はない。 (「打ち明ける:人生相談」の1件は、岡山県の新教派系教団によるもの。) Web ベースのコミュニケーションは原理的に、電子メールやメーリングリスト、電子掲示板(BBS)、ニュースグループ、チャットなどの相互作用型のコミュニケーションとは異なり、発言主体が自由に情報発信や自己表現を行う呈示型のコミュニケーションである ([川浦1998: 160]) が、相互作用型コミュニケーションへ誘う窓口としても機能しうるものであり、また現に仏教系既成教団・キリスト教・新宗教系サイトではそうした内容のものが見出される。例:

善照寺 (浄土宗、千葉県市川市) の「懺悔室」 http://www.bekkoame.ne.jp/~imaoka/
林浩司 (米国アイダホ州在住、聖公会牧師、牧会カウンセラー) の「ふれあいの窓」 http://www.try-net.or.jp/~k-ohta/pastoral/
天帝不動会 (東京都中央区) の「人生相談」 http://www.egg.or.jp/tenteifudoukai/

その他の特徴:

画像情報が多い。(数量的に明示することは困難だが) 社殿や景観、祭りの風景や神社が保有する美術品の写真、意匠を凝らしたタイトルロゴや背景など。自己開示のなかでもテキスト情報が主である「知る:教義・教え」や、世論へのアピール、および集会・相談といった内容が少ないことと対をなす。
画像情報が多いと、回線の細いユーザーには負担を強いる。多くの人にとって読みやすい Web ページにするための注意点をまとめたさまざまなガイドラインが存在し ([Burstein 1998])、またサイト運営者のもとにはユーザーからの批評・感想を記した E-mail が寄せられるはずであるから、通常は運営者の初期の意図のままで Web サイトが維持されることは考えにくい。しかし、次に挙げる特徴により、必ずしも神社 Web サイト全般が相互作用なき自己開示とまでは言いきれない。
リンク集を半数以上が持っている。ハイパーリンクによって他のサイトとシームレスにつながることはWWWの重要な特性だが、それは Web サイトを運営する集団や個人が、既存の秩序・ヒエラルキーとは無関係に関係性の連鎖を構成することができるということでもある([Zaleski 1997])。神社 Web サイトの場合、Shrine Net[4] や神社オンラインネットワーク連盟[5]といった団体が1997年ごろより発足していることにも象徴されるように、比較的独立性の高い神職同士によるインターネットを通じた相互の連携が、リンク集という形にも現れていると思われる。しかし、集会・相談の機能を担うサイトが少ないことからみても、この特徴が新たな氏子・崇敬者集団形成の可能性につながるとまでは言えない。

3 結び

実践別分類を継続的に行っていくことで、宗教 Web サイトの時系列的な傾向の把握、宗教教団ごとの特徴の把握を行うことが可能になっていくものと思われる。

Web のコミュニケーション形態は川浦康至 ([川浦1998]) が指摘するように本来「呈示」型であるため、Web サイトを追うのみでは、CMC の主要なコミュニケーション形態である「相互作用」型の利用実態をつかむことには限界がある。電子メール、ニュースグループ、チャットなど他のインターネット利用形態における相互作用的なコミュニケーションのありようを調査分析することが今後不可欠である。

CMC と既存メディアによるコミュニケーション、直接的なコミュニケーションとの間に教団、信者が設けている境界とその認識枠組を探ることも今後の課題である。米国では、キリスト教系のカルト研究団体 Spiritual Counterfeits Project[6] が、サイバースペースのさまざまな誘惑 (サイバーポルノ、ハッカー、デジタル・ユートピア幻想など) について警告するための啓蒙的な書籍 [Brooke 1997] を刊行している。日本にはここまではっきりとしたかたちで自覚的な CMC 利用を促すケースは見られないように思われるが、神社界においては「ヴァーチャル参拝」に対し躊躇や拒絶がみられた。

本研究は、(財)電気通信普及財団平成9年度助成研究「コンピュータ・ネットワークの普及と宗教的行為の変容に関する調査研究」 (黒崎浩行・葛西賢太・田村貴紀・深水顕真) によるものです。

注

[1] なお、既存の宗教教団のインターネット利用のみでなく、CMC 空間における新たな宗教性生起の現象についても調査研究を計画している。

[2] Yahoo! JAPANの「生活と文化:宗教:宗教別」以下の分類に従った。

[3] 分類カテゴリーは黒崎浩行・田村貴紀・葛西賢太・深水顕真により考案。なお、田村貴紀は [田村1997] で10の機能分類を行っているが、ここに挙げたものとは異なる。

[4] 1997年4月発足。「神社の発展、会員相互の資質の向上、インターネットに関する情報交流を目的と」([Shrine Net 1998])し、神職によるメーリングリストを運営。 http://www.shrine.net/

[5] 1997年1月発足。主に神社本庁に属する神社の神職有志により、神社と神道に関する知識の普及を目的として運営。神職によるメーリングリスト、オフラインミーティングなどの活動も行っている。 http://www.jinja.or.jp/

参考文献

[ウォッチ編集部1998] ウォッチ編集部 1998 「【イベント】ホームページを開設している宮司が集う　神社のインターネット利用は進む？　矢先稲荷神社で研修会開催」 Internet Watch、インプレス、1998年8月20日。(1998年9月13日取得、 http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/980820/jinja.htm)

[川浦1998] 川浦康至 1998 「開く―パーソナルホームページの世界」『現代のエスプリ』1998年5月: 158-166。

[川島1997] 川島堅二 1997 「インターネットの宗教的活用の現状と可能性―アメリカのキリスト教会の事例研究」 http://www.kiwi-us.com/~keisen/ronbun.int.pre.htm (恵泉女学園大学『人文学部紀要』9 (1997年1月): 53-74 所収論文のオンライン版)

[Shrine Net 1998] Shrine Net 1998 「Shrine Net について」1998年1月22日。(1998年9月13日取得、 http://www.shrine.net/about.html)

[田村1997] 田村貴紀 1997 「〈研究ノート〉インターネットの宗教情報―その可能性と危険性―」『宗教と社会』3: 119-136。

[宮台1996] 宮台真司 1996 「見当違いの倫理主義を排斥せよ: インターネット化がもたらす社会システムの危機」『へるめす』1996年9月号: 14-29.

[ラインゴールド1995] ラインゴールド, ハワード 1995 (1993) 『バーチャル・コミュニティ: コンピューター・ネットワークが創る新しい社会』会津泉訳、三田出版会。

[Barna 1998] Barna Research Group. 1998 ``The Cyberchurch Is Coming: National Survey of Teenagers Shows Expectation of Substituting Internet for Corner Church,'' July 12, 1998. (Retrieved September 13, 1998, http://www.barna.org/PressCyberChurch.htm

[Brooke 1997] Brooke, Tal (ed.). 1997 Virtual Gods: The Seduction of Power and Pleasure in Cyberspace. Eugene: Harvest House Publishers.

[Burstein 1998] Burstein, Cari D. 1998 ``Viewable With Any Browser: Accessible Site Design,'' September 9, 1998. (Retrieved September 13, 1998, http://www.anybrowser.org/campaign/abdesign.shtml)

[Zaleski 1997] Zaleski, Jeff. 1997 The Soul of Cyberspace: How New Technology Is Changing Our Spiritual Lives. New York: HarperEdge, Harper Collins.

インターネットと宗教教団